「事業撤退…」「新規サービスがたった1年で終了…」「サービス終了のお知らせ…」
残念ながら、ほとんどの事業やサービスは「失敗」してしまいます。とは言いましても、もし新規事業を立ち上げる役割を担ったのならば、絶対に成功したいと思うことでしょう。
新規事業は既存事業とは異なり、ルールの整っていない世界です。一つ言えることは、どんな世界でもルールを知っている人は強いものです。そして、ルールは歴史から学ぶことができます。
筆者からのご提案は「過去の失敗法則と成功法則を知ることで、新規事業の成功確率をあげよう」というものになります。記事を読み、対策をすることで、新規事業を成功させましょう。
この記事を読むとわかること
・新規事業の失敗する理由がわかる
・新規事業の成功のための対策がわかる
この記事を書いた人
古川賢人 事業開発.com編集長/株式会社イフビズ代表取締役
事業家、起業家。ベンチャー企業創業および事業開発〜運用、大企業での事業開発〜運用まで経験。世界的経済誌Forbesにてアジアで活躍する30歳未満のリーダー人材(Forbes 30 Under 30 Asia 2021)として選出された他、グッドデザイン賞、日本ギフト大賞、ACC等受賞経験あり。事業開発人材=事業家の働きやすい環境作りや事業家育成が企業成長及び経済成長の鍵と考えている。
新規事業が失敗する割合
新規事業の成功確率は一般的に「センミツ」と呼ばれています。「1000に3つ」でセンミツです。確率にして0.3 %ですので、非常に低い成功確率ということはお分かりでしょう。
具体的なデータとて、経済産業省が新規事業の取り組みに対して調査データを公表しています。新規事業展開を行った企業のうち、「成功」の回答が約30%。経常利益が増加したと回答した企業はそのうち50%。つまり、15%が数値的に成功したという回答です。
しかしながら、調査されていないアイデアや、新規立ち上げの途中で諦められたプロジェクトも踏まえて考えるともっと低い数値になることは確定的でしょう。「センミツ」までとはいかないかもしれませんが、「成功確率は10%以下」とみて間違い無いでしょう。
新規事業をこれから立ち上げる方は、1割以下の成功確率だと肝に銘じてください。
新規事業が失敗する原因
具体的に新規事業が失敗する原因について見ていきましょう。失敗する原因は特に「あるある」のケースですので、失敗パターンを避けることができれば勝率は上がると考えて良いでしょう。
市場選定/市場ニーズの誤解
前提としまして、新規事業立ち上げで最も重要なことは「どこで戦うか」を決めることです。どんなリーダーが前に立つかよりも、どんなに資金力を有しているかよりも、どの市場で戦うかが最も注目すべきポイントです。
・「なんとなく勝てそう」と思って市場参入してしまう
・独自の強みのないまま市場参入してしまう
・ブルーオーシャンすぎて需要のない市場へ参入してしまう
上記のように、見積もりの甘さから市場選定を間違えてしまうケースがほとんどです。
アセットの活用不足
自社のアセットを活用できていない場合、新規事業の失敗確率は上がるでしょう。
最も有効的な領域は自社のアセットを活用でき、よく知っている業界で戦うことです。言い換えるならば「既存アセット×既存領域」が最も成功確率が高いのです。
対して「新規アセット×新規領域」を狙ってしまうと最も成功確率が極端に低くなります。アセットも活用できず、領域のこともよくわからず、といった状況です。ただ、人は新しいものに惹かれるのも確かです。未経験領域への根拠のない自信によって、結局負け戦となってしまうのです。
参入タイミングの見誤り
事業に参入するときにはタイミングが非常に重要です。タイミングを間違えると、簡単に失敗します。
・コロナ禍でマスクの需要が急増。withコロナでマスク業界に参入
・タピオカブームが到来。大手チェーン店以外が閉店する中でタピオカ業界へ参入
上記はわかりやすい一例です。トレンドが去った後に参入してしまうと、需要自体が右肩下がりのため、マーケティングコストが上がり、売り上げが立ちにくくなってしまいます。
会社内での調整ごとに時間をかけすぎていたり、体制構築が遅くなってしまったり、遅延する原因はいくらでもあります。ベストなタイミングで市場参入することが新規事業には重要なのです。
経験からくる過信
特に失敗経験がない方や、思い切りの良い性格の方に多いケースです。これまでエリートな経験を積んできたために、経験を過信し、失敗してしまうケースです。
新規事業は過去の経験ももちろん重要ですが、客観的な意識を持つことの方が圧倒的に重要です。既存事業であれば過去の経験を存分に発揮できるのですが、過去の経験が通用しないために新規事業は難しいのです。
圧倒的に客観的でいれるようなタイプの方が、経験に縛られずに、事業自体の輪郭を描いていくことが可能です。
資金不足
資金がショートしてしまい、余儀なく撤退してしまうケースです。事業進行において、事業計画を立てて、予算組みした上で、必要なコストを配分していきます。新規事業における必要コストはあくまで概算予測となりますので、思いもよらぬ出費がかさむケースがほとんどです。つまり、事業計画通りに進まないことが多いのです。
需要を確認でき、売り上げが上がる可能性があるにもかかわらず、予算がショートしてしまい撤退するのは好ましいことではありません。
おすすめは、可能であれば、予算に余白を持たせておくことです。何かあった時のために、予備費用を持つことで、突如発生する想定外のコストにも対応することができます。何が起こるかわからないからこそ、あえて保険を持たせておくと良いでしょう。
チームメンバー過剰
チームメンバーをアサインしすぎてしまい、コミュニケーションコストが上がってしまう場合、失敗の原因になる可能性があります。
事業立ち上げ時期は、特に事業スピードが求められますが、コミュニケーションコストが高くなってしまうと、実行タイミングを逃してしまうケースがございます。そのため、新規事業立ち上げ時期は少数精鋭で、多少ストレッチしたタスク内容で実行する方が良いのです。
チームモチベーションの維持不足
新規事業では、特にモチベーションが重要です。答えのない戦いを繰り広げるわけですから、絶え間ないPDCAを実行し続けて、正解を探すための胆力が必要になります。
成果が出るまで時間がかかると、チーム全体の士気は下がってしまいます。資金も少なくなり、結果も出ないと、どうしても保守的な思考になってしまう方がいるのです。
結局のところ解決策は「根拠のない自信」を持ち、「成功させる」という情熱を持つしかないのです。特に、チームリーダーはリーダーシップを保ち続けることを常に意識し、チームメンバーのモチベーション管理をする必要があるのです。
自信過剰による客観性不足
自意識過剰であることは、客観性を見失うための十分な理由になります。
新規事業を進める中では情熱を持ち続けることが非常に重要ですが、それが傲慢さや過剰な自信へと繋がってしまう場合は注意が必要です。
自信過剰による弊害
・リスクを過小評価してしまう
・学習機会を損失しPDCAを回せなくなる
・チームの人間関係の悪化による士気の低下
撤退ラインの未設定
一度投資をした事業ですと、愛着が湧き、損したくないという思いが生まれます。結果的に、ずるずると事業自体は継続するのですが、売上が上がらない自体に陥ってしまいます。
そのような事態を回避するためには、事業をどこまで頑張って、どこからは撤退するかの線引き「撤退ライン」の設定が重要です。
撤退ラインの引き方は様々ですが、基本的には期間と達成率で考えるようにしてください。具体的には「理想とする目標に対して、◯ヶ月以内に、◯%まで達成できるかどうか」になります。
新規事業の失敗事例
新規事業の有名な失敗例をご紹介します。資金も人材も豊富に有する大手企業でも、事業の撤退をすることがあるのです。どんな新規事業でも失敗する可能性があるとわかるでしょう。
Google Glassの販売停止
誰もが当たり前に利用するGoogleは「Google Glass」と呼ばれるメガネ型のデジタルデバイスを提供しました。SF世界で使用されるような拡張現実技術(AR技術)を有したデバイスで、メガネ越しに文字や映像が現れる商品でした。
未来的で可能性もあり、一見すると需要の高そうな商品ですが、メガネに搭載されたカメラが原因で撤退を余儀なくされています。カメラを通してどこでも撮影が可能なため、プライバシーの侵害問題へとつながる可能性があったのです。
利便性の高い機能であっても、使用者やその周りにいるユーザーがどう思うかまで構想することがいかに難しいかがわかる事例です。
7payのサービス停止
コンビニやスーパーでお馴染みのセブン&アイ・ホールディングスが提供した「7Pay」というバーコード決済がありました。今では多くの方が電子マネーや電子決済技術を活用していますが、大手小売が参入することは非常に合理的だと考えられます。
大手小売×決済手段という勝率の高そうな事業ですが「7Pay」はサービスの提供を停止しています。第三者の不正アクセスにより、800万人にも及ぶユーザーの支払い手続きが勝手になされるという被害が発生したのです。原因としては認証システムとリスク管理体制の整備不足が挙げられました。
セキュリティ対策は往々にしてサービス提供後に発覚します。その被害規模が大規模になってしまうようなインシデントは、サービス停止を発生させるのに十分な原因となるのです。
メルカリの英国市場撤退
メルカリは日本国内ではCMが毎日のように放映されています。順調な会社に見えますが、2018年に英国市場から撤退をしているのです。
撤退理由は売上が上がらなかったことです。海外進出ではローカライズが重要ですが、ローカライズ仕切れずニーズを見つけることができなかったのです。
新規事業が成功に導くための解決策〜準備段階〜
さて、新規事業の失敗についてわかったところで、成功に導くために必要なことをみていきましょう。準備段階と実行段階に分けて記載しますので、ご自身がマッチするケースを参照ください。
準備段階1:情報収集と調査による準備の徹底
新規事業は準備が最も重要です。準備とは、情報収集と調査を実施することで様々な角度から事業内容の勝ち筋を検討することを意味します。
「やったことのないことはわからない」という当たり前の言葉がある一方で、「やったことのないことでも解像度をあげること」ができれば、勝率が著しく上がります。
情報の量をとにかく集めることを徹底し、「知らなかった」がないようにすることが大切な観点です。
情報収集方法例
・Webサイトで網羅的にキーワード検索
・掲示板やSNSの口コミ情報
・対象ペルソナへのインタビュー
・調査機関への調査依頼
準備段階2:フレームワークによる多角的な検討
フレームワークを活用することで新規事業の勝率をあげることが可能です。アイデア出し、優先度判断、戦略立案…などあらゆる場面にて用いることが可能なものがフレームワークです。フレームワークは、歴戦の猛者たちが生み出した「型」ですので、一定の効果を発揮することは間違いありません。
実際にフレームワークを活用していただければわかりますが、効率的に情報の整理ができるため、戦略の筋道がクリアになるでしょう。
たくさんのフレームワークがありますので、ケースバイケースで適切なものをぜひ活用しましょう。
準備段階3:ストレッチしたチーム作り
結論から申し上げると、チームメンバーには少し無理をさせるくらいのチーム設計を心がけましょう。
特に新規事業はハードな面も多いため、どうしてもマニュアル化されていない業務内容が増える傾向にあります。そのため、少ない人数で細かな連携を取りながら、チームで乗り越えていく経験が重要になります。ストレッチした目標をこなせる少数精鋭のメンバーを集めることが重要なのです。
メンバーに求めるべき資質
・タフな環境への適性がある
・業務内容が横断的でも柔軟に対応できる
・スピード感を意識した行動ができる
・ふわっとした内容でも自分で考えて解決策を導き出せる
新規事業が成功に導くための解決策〜実行段階〜
新規事業の準備段階の後は実行段階になります。世の中にサービスや商品を披露し、お客様の反応を獲得しながら、どのようにすればスケールできるのか考えるフェーズです。解決策を見ていきましょう。
実行段階1:目標設定&柔軟な変更
当たり前のことですが、目標をきちんと設定しましょう。目標がないと、一体何を目指せば良いのか、チームの方向性がブレてしまうためです。「あの山を登ろう」といったシンプルな目標設定が大切です。「どの山かわからない」状態になると、チームが混沌としてしまいますので、誰もがわかりやすい「定量的な数値目標」を設定してください。
また、目標への進捗状況によっては、目標自体を変えてください。新規事業の目標は、実績のない中で予算組みされますので、実際に事業が動き出すと全く違う数値となる可能性が高いのです。
たとえ本来の目標から低い目標へと切り替えたとしても、それが実態に即しているのであれば、良いことなのです。想定ベースから実態ベースへの動きへと変貌する方が重要です。
実行段階2:徹底したスピード意識
事業や商品をローンチした後は、スピード感を必ず意識してください。スピードをあげることで、様々な実験を高速で行うことができるためです。
答えのない戦いにおいて重要なことは「答えをみつけること」です。答えを見つけるには、正解の仮説を立てて行動することが最も早い近道です。
考えてばかりいたり、必要以上の分析をするよりも、お客様の反応を見ることを意識しましょう。
実行段階3:お客様の声に耳を傾ける
お客様の声を最も聞くようにしましょう。なぜなら、お金を出してくださるお客様にこそ事業のキーとなる答えが眠っているからです。
お客様からの要望やクレームをきちんと聞き、どのような傾向性があり、どんな対策が立てられるか逐一検討しましょう。
お客様の声の取得方法
・アンケート
・個別インタビュー、ヒアリング
・グループインタビュー
実行段階4:PDCAサイクル
PDCAサイクルを高速で回すことを常に意識しましょう。今まで記載してきたことは総じて、PDCAを高速で回すためのヒントでもあります。
結局のところ、答えのない新規事業では、「早く行動して、分析して、打ち手を考えて、改善して…」を繰り返すことが、答えを見つけるのには最も早いのです。
PDCAを回し続けることで事業は着実に成功に近づきます。
まとめ
新規事業の失敗原因と対応策について紹介してきました。自己の経験ではなく、これまでの事業家(=事業開発を担う人)たちが蓄積してきた方法論を活用することで、成功を獲得することが可能だと筆者は考えます。
もちろん新規事業を立ち上げると、うまくいかないことがたくさん発生します。課題だらけです。ですが、重要な課題は無限にあるわけではありませんので、一個ずつ解決策を見つけていけば良いのです。新規事業には泥臭さが必要なのです。
事業開発.comは、新規事業を担う事業家の輝く未来を応援するためのメディアですので、よろしければ他の記事もご覧ください。