「新しい事業を作ってください」
この一言を与えられたら、あなたならどうするでしょう。何からどうやって手をつけたら良いのか…頭を抱えてしまう人も多いのではないでしょうか。
筆者自身、「アイデア出し」と言われると苦手意識がありました。良いアイデアを出せるのは、アイデアマンの仕事だと思っていたからです。そんな筆者でも、これまでにベンチャーから大手まで数多くの新規事業の立ち上げを行った事実があります。なぜアイデアを出して事業の立ち上げを行えたのかというと、考え方を変えたからです。
アイデアの出し方について勉強し「アイデアを出すには方法論がある」という事実を知りました。そして、アイデア作りには才能よりも方法を知っているかどうかが重要と考えるようになりました。つまり、方法論さえわかれば、アイデアが出せるのです。
新規事業を作るアイデアが豊富な方はこの先を読む必要はないでしょう。ですが、「新しい事業を作ってください」の問いにうまく答えられなかった方は、ぜひご一読ください。
筆者自身、新規事業開発を何度も行っておりますが、実際に使用しているアイデアの出し方です。アイデアを出す方法論は無数にありますが、特に効果の高いものだけを抜粋してご紹介しますので、ぜひご活用してみてください。
この記事を読むとわかること
・アイデアを出すための方法論がわかる
・アイデアを事業にする際の重要ポイントがわかる
この記事を書いた人
古川賢人 事業開発.com編集長/株式会社イフビズ代表取締役
事業家、起業家。ベンチャー企業創業および事業開発〜運用、大企業での事業開発〜運用まで経験。世界的経済誌Forbesにてアジアで活躍する30歳未満のリーダー人材(Forbes 30 Under 30 Asia 2021)として選出された他、グッドデザイン賞、日本ギフト大賞、ACC等受賞経験あり。事業開発人材=事業家の働きやすい環境作りや事業家育成が企業成長及び経済成長の鍵と考えている。
新規事業の必要性について
そもそも新規事業が必要な理由はなんでしょうか。
当たり前ではございますが、すべての事業・サービスが世の中に公開された瞬間には、その全てが新規事業でした。時代が変化し、技術が変化する中で、事業やサービスは淘汰され、残念ながら必要とされない事業が終了の時を迎えます。既存事業が成功している状況であっても、非常に強力な競合が現れるかもしれませんし、思わぬことから炎上してしまいクローズする可能性もあるのです。つまり、事業に永続性はないのです。
新規事業は、時代のトレンドや、世の中のニーズに合わせて、その時代にあったものを提供する試みです。既存事業の成長だけでなく、新たな柱を作り続ける活動が企業には必要なのです。
例えば…
「携帯電話の登場で固定電話のシェアが減少→スマホの登場でガラケーのシェアが減少」のようなことはみなさん経験しています。時代にあった新規事業が必要なのです。
アイデアを出すための方法&フレームワーク8選
具体的なアイデアの出し方についてみていきましょう。どのフレームワークも一つで完璧なアイデア出しが可能と言うわけではないため、複数の考え方を組み合わせて活用してみてください。
1:アセット×領域セグメントにおけるポジショニング思考
アセットと業界領域をベースとした思考方法です。自社のアセットと業界領域を別の場所に転換した場合どのような事業が考えられるか、という視点になります。
アセット:資産=人、システムなどの資産を指します。領域:業界、サービス領域を指します。
①既存アセット×既存領域
最も成功確率が高い。できればここを伸ばすことに再注力した方が良い領域
②既存アセット×新規領域
2番目に成功確率が高い。既存アセットを横展開できる業界や領域。
③新規アセット×既存領域
3番目に成功確率が高い。領域内で新規のポジショニングを行うケース。競合の強さによって、成功確率が大きく変わる。
④新規アセット×新規領域
最も成功確率が低い。未知の領域であるため、事業計画数値の蓋然性が低く、企画で倒れることも多い。
例えば、仕入れ力に強みのあるスーパーマーケットが新規事業を立ち上げる場合を考えてみましょう。
①既存アセット×既存領域であれば、自社の仕入れ力をより増強することで顧客単価を上げる取り組みが考えられます。
②既存アセット×新規領域であれば、ECサイトの構築や、進出していないエリアへの出店などが検討できます。
③新規アセット×既存領域であれば、スーパーマーケットには普通置かないような、洋服や本などを並べてみることも検討できるでしょう。
④新規アセット×新規領域であれば、全く事業内容となるため、美容院を出店するなどがこれにあたります。
新規事業は冒険することが目的ではないため、①既存アセット×既存領域や②既存アセット×新規領域のような、なるべく成功確度の高い事業立ち上げをお勧めします。
2:競合分析
自社のライバルを分析しましょう。全く同じ事業だけではなく、自社と異なる特徴や、自社では取り組んでいないような事業を保有している可能性が高いです。
分析する際の観点として、ビジネスモデルと強みを抽出することに集中しましょう。競合との違いは洗い出そうとすれば山ほど出てきますが、「何をもってお金を稼いでいるのか」を言葉にすることが最も重要です。
競合ができていることであれば、アセットの観点から、自社も参入しやすい可能性が高いです。近くにいるライバルの戦い方をしっかりと分析してみましょう。
3:SWOT分析
SWOT分析は、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の観点からアイデアやプロジェクトを評価するフレームワークです。この分析を通じて、新しい機会を特定し、戦略を立てる際の洞察を得ることが可能です。
自社の強みや弱みは何か、どんな機会があって、どんな脅威があるのか。言葉にすると簡単ではありますが、洗い出してみると新たな発見ができるはずです。「強みで見つかったことをもっと強化する」「弱みで見つかったことを克服する」のように、シンプルながらもアイデアの種としては成功確率が高い可能性があります。あらためて自社を中心に添えた上で、その周辺領域を見える化することで、必ず発見があるはずです。
4:マインドマッピング
マインドマッピングは、アイデアや概念を視覚化する手法です。中心概念から放射状に枝分かれする形で情報を整理します。アイデアを構造化し、関連付けるのに特に有効です。
マインドマッピングでは、自分の立場や実現可能性などの思考の制限を設けず、自由にアイデアを出しましょう。また、思ったことは全て書き出してみてください。
全ての制限を開放し、考えたことを芋蔓式に網羅化することができるので、ブレインストーミングのような議論では出ないようなアイデアが出る可能性があります。
5:ブレインストーミング
ブレインストーミングは、新しいアイデアや解決策を自由にかつ迅速に生み出すための手法です。一人ではなくグループで実行します。
具体的には、人を収集し、会議を設けて、「〇〇領域における新規事業アイデア」のようなアジェンダを設定します。そこからは、自由に発散することだけに焦点を絞りましょう。
ブレインストーミングのルール
量を重視する: アイデアの質よりも量を優先し、多くのアイデアを生み出すことを目指しましょう
批判を避ける: 初期段階では批判や評価を行わず、あらゆるアイデアを受け入れます。
自由奔放に発想する: 通常では考えられないような、創造的で斬新なアイデアの提案を奨励します。
アイデアの組み合わせ: 提案されたアイデアを組み合わせたり、改善したりして、新たなアイデアを生み出します。
6:SCAMPER
SCAMPERは質問の頭文字をとったリストです。アイデアを発展させるための質問リストで、各文字が特定の思考プロセスを表しています。
1. Substitute (代替する)
質問: 何かを別のもので代替できるか?
例: ソフトクリームのスプーンを、プラスチック素材からコーン素材に代替する。
2. Combine (組み合わせる)
質問: 異なる要素を組み合わせることはできるか?
例: 時計に血圧計を組み合わせて、スマートウォッチにする。
3. Adapt (適応させる)
質問: 既存のアイデアを新しい状況に適応させることはできるか?
例: 古い学校をアートギャラリーやコワーキングスペースとして利用する。
4. Modify (変更する)
質問: 何かの形状、形式、または属性を変更できるか?
例: 従来の冷蔵庫を変更して、食品の鮮度を色で示すスマート冷蔵庫にする。
5. Put to another use (別の用途に置きかえる)
質問: 既存の製品やサービスを全く新しい用途で使用できるか?
例: キッチンの計量カップを園芸用の水やりカップとして使用する。
6. Eliminate (排除する)
質問: 不要な部分を取り除くことはできるか?
例: リモートコントロールから余分なボタンを排除して、ユーザーインターフェースをシンプルにする。
7. Reverse (逆転する) / Rearrange (再配置する)
質問: プロセスや順序を逆にできるか、または再配置できるか?
例: 通常は最後に行われる顧客フィードバックを、製品開発プロセスの初期段階に組み込む。
自社サービスをベースにして考えてみたり、アイデアの種をベースにして考えてみたり、何か軸を作ってからSCAMPERを行うと効果的です。
7:デザイン思考
デザイン思考は、ユーザー中心のアプローチを用いた思考方法です。ユーザーのニーズと経験を深く理解し、それに基づいて革新的な解決策を創出することを目指します。
1. 共感 (Empathize)
目的:ユーザーの視点を理解し、彼らのニーズ、課題、動機を深く掘り下げる。
方法:観察、インタビュー、フィールドリサーチなどを通じて、ユーザーの体験や感情に共感する。
2. 定義 (Define)
目的:共感フェーズから得られた情報をもとに、解決すべき具体的な問題を明確に定義する。
方法:ユーザーニーズ、課題、インサイトをまとめ、問題を作成する。
3. 発想 (Ideate)
目的:問題解決のための革新的なアイデアを自由に発想する。
方法:ブレインストーミング、SCAMPER、マインドマッピングなどのテクニックを用いて、多様なアイデアを生み出す。
4. プロトタイプ (Prototype)
目的:アイデアを具体的な形にし、実際に触れられる形で表現する。
方法:簡易的なモデルやデモを作成し、アイデアの実現可能性を試す。
5. テスト (Test)
目的:プロトタイプをユーザーに試用してもらい、フィードバックを得る。
方法:ユーザーテストを実施し、フィードバックを収集して解決策を改善する
今までに出してきた方法の複合技のような立ち位置です。実際の効果検証までをスコープとしているので、この方法論自体が新規事業開発全体の流れを表現しているとも言えます。
8:AI活用
最後はAI活用です。AIにアイデアを投げかけたり、AIにアイデアを出してもらう方法です。一人で無限に思考できるので、短時間でアウトプットの質を高めたい時に効果の高い方法です。AIは、提供された情報に基づいて回答するため、質問をより具体的にすると精度が上がります。
今までご紹介した方法でAIに考えてもらうことももちろん可能です。AIを利用すると、お手軽に一定以上の量と質を担保できるので、迅速に行動したい方には非常におすすめの方法です。
例えば、以下のようなプロンプトを参考にしてください。
1. 逆転の発想
問い: 現在の状況/問題を完全に逆転させるとどうなるか?
例: もし通常のコーヒーショップではなく、完全に逆転したコンセプトのカフェを開くなら、どんな特徴がある?
2. SCAMPER法
問い: SCAMPER(置き換える、組み合わせる、適応させる、修正する、目的を変える、除去する、再配置/逆転させる)の各要素を使用して、既存のアイデア/製品をどのように変化させることができるか?
例: 既存の製品(ノートパソコン)をどのように修正または改善できるか?
新規事業立ち上げで重要なこと
アイデアの出し方がわかったところで新規事業の立ち上げ自体について考えてみましょう。
新規事業立ち上げで重要なことは何でしょうか。正解は、事業が成功することです。何を当たり前のことをと思うかもしれませんが、「成功できる事業」を立ち上げることが最も考えるべきことなのです。
市場は戦場です。「どの戦場で戦い」「誰と戦い」「どうやって勝つのか」。この簡単な問いをクリアすることが事業立ち上げには重要です。
どの戦場で戦うか:最も重要なのは市場選択
「どの市場で戦うか」を選択することが最も重要です。爆弾ばかりの戦場で戦うとしたら、最初からビクビクとしてしまい、一歩踏み出すことにも躊躇してしまいます。難攻不落の城壁を攻め落とそうとしたら、それもまた骨が折れることでしょう。対して、特に爆弾も城壁もなく、敵もなんだか弱そうな戦場を見つけられたら「勝てそうだな」と思えることでしょう。
市場選択が事業成功の大部分を担っていると言っても過言ではありません。
一時期流行した言葉に「ブルーオーシャン」があります。敵がいない市場だったり、斬新な市場を意味する「ブルーオーシャン」。たしかに敵がいない市場かもしれませんが、倒す敵がいないということは、手に入る勝利(=売上)もよくわからない場所です。ニッチ領域を攻めればいいということではないのです。
たとえ競合が多く「レッドオーシャン」に見えたとしても、隙間を見つけたり、戦えそうな小さな市場を見つけたり、陣取りできる位置=ポジショニングをしっかり考えればよいのです。むしろ「レッドオーシャン」は、すでに市場が形成されていますので、少しでもそこから市場をかすめ取ることができればしめたものです。
市場選択を間違えないことを肝に銘じましょう。
誰と戦うか:「独占率」と「強大さ」
敵の強さは市場の「独占率」と「強大さ」をみて判断しましょう。
「独占率」とは、市場の売り上げを何社でシェアしているかです。1社の独占的な市場なのか、5社程度の寡占的な市場なのか。あるいは、同じような敵が無数に存在しており横並びの敵が多いのか。あまりにも強すぎる敵がいる市場は戦うのが難しく、寡占市場は武器が必要で、横並びの市場は工夫次第で立ち位置を作ることができます。
「強大さ」とは、売り上げ規模です。100億円の市場規模で、50億円売り上げている企業と10億円売り上げている企業がいたら、どちらが強大でしょうか。もちろん前者です。強大な企業がどのくらい強大なのかを、先ほどの独占率を掛け合わせて、敵の強さを把握するのです。
最も理想的なケースは、市場はそれなりに大きいが、敵が拮抗し合っていて、独占も寡占もされておらず強大でもない状態です。敵を責めることができる隙があるはずです。隙を見つけて、空いている市場を狙うことができれば、勝てるのです。
どうやって勝つか:強みとなる武器は何か
戦車が行き交う戦場があったとして、どんな武器なら敵に勝てるでしょうか。仮に弓矢しか持っていない場合、なかなか戦車を倒すことは難しいでしょう。拳銃や手榴弾でも、勝率は低いです。対して、ロケットランチャーを持っていたり、敵よりも頑丈で大きな戦車を持っていたらどうでしょうか。勝てそうな気がしますよね。
敵の武器を見極めて、自分の武器は何かを知ることも重要です。いくら勝てそうな市場で、敵も分散していて隙があったとしても、戦える方法論がなければ戦いになりません。
強みとなる武器は、「技術」「資金力」「人数」「協力者」など様々な切り口で見つけることができます。どんな武器なら市場で存在感を発揮できるか見極めましょう。
要約すると「情報戦」
本章で記載してきたことは、総じて「情報の重要性」についてです。市場を知り、敵を知り、己の武器を知る。言葉にすれば簡単ですが、全て情報なのです。つまり、新規事業に必要なのは「情報戦」をするという意識なのです。
情報戦をするためには、情報をいかにして集めるかが鍵です。あらゆる手段を使って情報を集め、その情報を要約し、まとめ、自分だけの情報を作るのです。
リーダーの存在、チーム作り、スピード感、攻め方など、新規事業ではいろいろな要素が絡み合うような気がしてしまいますが、肝は「情報」です。新規事業を立ち上げる際は「情報戦」をするという意識をぜひ持ってください。
まとめ
新規事業のアイデアの出し方については理解できたでしょうか。
アイデアを出すための方法論をしっかりと身につけ、ぜひたくさんのアイデアを出してみてください。様々な方法を試すうちに、自分にあったものも見つかりますので、経験をたくさん積んでください。
アイデアが出た後は、「どうやって成功するか」に重点を置いて考えましょう。難しく考えすぎず、できるところから少しずつ情報を集めてください。「情報戦」の意識さえ忘れなければ、きっといい結果が待っています。
筆者自信、アイデア出しを習慣化しており、日々気になったことはメモしています。メモした内容を時間をとって方法論に落とし込めば、あっという間にたくさんのアイデアができあがります。
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