死の谷を超えていけ!魔の川・死の谷・ダーウィンの海を超えるためにできること

新規事業開発界隈で使用される言葉に、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」があります。ホラー映画のタイトルのような言葉ですが、事業に立ち塞がる障壁を表す3つの関門を指しています。

新規事業開発に取り組んでいて「なかなか事業がうまくいかないな…」と感じている時には「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」のいずれかにハマってしまっている可能性があります。一つずつ課題を明確化し超えていくことで、壁の先の成功へ近づくことができます。

「新規事業がうまくいっていない」「新規事業がうまくいくか心配」という方は、ぜひご一読ください。新規事業の壁を乗り越えるために、それぞれの壁についてきちんと理解して突破していきましょう。

この記事を読むとわかること

・魔の川、死の谷、ダーウィンの海とは何かわかる

・魔の川、死の谷、ダーウィンの海の乗り越え方がわかる

この記事を書いた人

古川賢人

古川賢人 事業開発.com編集長/株式会社イフビズ代表取締役
事業家、起業家。ベンチャー企業創業および事業開発〜運用、大企業での事業開発〜運用まで経験。世界的経済誌Forbesにてアジアで活躍する30歳未満のリーダー人材(Forbes 30 Under 30 Asia 2021)として選出された他、グッドデザイン賞、日本ギフト大賞、ACC等受賞経験あり。事業開発人材=事業家の働きやすい環境作りや事業家育成が企業成長及び経済成長の鍵と考えている。

目次

事業に立ちはだかる3つの障壁

魔の川・死の谷・ダーウィンの海
魔の川・死の谷・ダーウィンの海

早速、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」について解説しましょう。

特にこの言葉は「技術経営(MOT:Management of Technology)」で使用されます。「技術経営」とは「技術をベースにした事業およびサービスにおける経営」を指します。特に日本は技術大国という言葉が使われてきましたが、技術を活用したビジネスを技術経営と呼ぶのだと理解してください。その上で、各言葉の意味は以下のとおりです。

「魔の川」:研究開発から製品化に至るまでの関門

「死の谷」:製品化から売上拡大に向けての関門

「ダーウィンの海」:競合との競争の中で訪れる関門

つまり「技術を使って事業をするぞ」と決めてから、研究段階、開発段階、事業化段階、産業化段階のどのフェーズで壁に当たったかで呼び方が変わるのです。

魔の川

魔の川について
魔の川について

魔の川は、最初期に発生する研究段階と開発段階の間の壁です。

たとえどんなに良い技術を持っていても、開発段階で「ユーザーが求める要件」「売れるアイデア」と結びつけることができなければ、宝の持ち腐れになってしまうわけです。

新しい技術を使って表現した製品が、まったく世の中に必要とされていなかったり、だれも使いたいと思わないものであれば、それは魔の川に陥っていると思って間違い無いでしょう。

魔の川の例:クラウドストレージサービスの展開

・開発の初期段階:簡易的なファイル共有とバックアップの需要を満たすために開発されました。

・魔の川:クラウド技術では、セキュリティとプライバシーの懸念が発生しました。ファイルを共有するにはデータが保護される必要があったのです。

・解決策:暗号化技術などのセキュリティ技術革新により、クラウドストレージサービスは普及しました。

魔の川はなぜ発生するか

魔の川は技術的思考に偏った場合に発生します。事業に必要な視点として「市場が必要としているか」というマーケティング的観点がありますが、それを見落としているのです。

市場に求められているものをキャッチアップできていなかったり、技術ドリブンすぎるために市場を置いていってしまったり、「購入する人あっての事業」の観点を忘れてしまうと、魔の川が発生するのです。

ただし、市場の動きは加速度的に早くなっているため、市場ニーズを捉えることが難しくなっているのも事実です。

魔の川を乗り越えるには

魔の川の2つの乗り越え方を紹介します。

1つ目は「技術チームとマーケティングチームで連携する」になります。そもそも技術的観点とマーケティング的観点は、全く土俵が異なります。チームをきちんと分けて、役割と責任範囲を定めた上で、2つのチームが伴走する体制を構築することが解決策となります。

優れた技術を磨く技術チーム、世の中の動きをウォッチして技術を活用するマーケティングチームが情報交換をしながら、世の中に必要とされる技術製品を作り出すのです。

2つ目は「ニーズをベースにした研究開発を行う」です。必要性から研究をはじめることで、マーケット感から外れることはなくなります。必要とされているものを、最新の技術で解決するのです。

ただし、市場ニーズは常に変化を伴うため、できるだけ「普遍的な悩み」を解決することを目指した方が良いでしょう。研究開発に時間がかかってしまったことで、市場ニーズがなくなってしまうこともあり得るからです。

死の谷とは

死の谷について
死の谷について

死の谷は、開発し事業化=製品化後に訪れる売上の壁です。製品が発売されたものの売上があがらないという、なかなかに厳しい状態です。

製品化初期は、人・もの・金の経営資源が最も多く必要とされます。そんな中、売上が上がらないわけですから、アクセルを踏むかどうかの経営判断が困難なわけです。最悪の場合、市場競争する前に早期撤退するようなケースもあり得るのです。

死の谷の例:初期のタッチスクリーン携帯電話

・開発の初期段階:1990年代後半から2000年代初頭にかけて、タッチスクリーンを搭載した携帯電話が開発され始めました。

・死の谷:当時のタッチスクリーンはまだ技術力が低いため反応が鈍く、使い勝手が悪いという問題がありました。そのため、同年代に発売された製品は市場で広く受け入れられませんでした。また、高価であるために一般消費者には手が出しにくく、マーケットにそぐわない形でした。

・解決策:iPhoneの登場により、高度に最適化されたタッチスクリーン技術が普及し、その後のスマートフォン市場の爆発的成長を支えました。つまり技術力と導入タイミングが数年後になることで、プロダクトはマーケットフィットしたのです。

死の谷はなぜ発生するか

死の谷は、調査の甘さによって発生します。技術とニーズが市場にフィットしていなかったために、売上が上がらないのです。

もちろんケースバイケースではありますが、「市場投入すること」自体が目的となってしまうと本事象は発生してしまいます。市場に投下することは事業観点で言えばスタート地点ですが、技術観点ではある意味ゴールでもあります。

「良い商品であれば売れる」という発想は、誰にとっての「良い商品」なのかを考える必要があるのです。「技術的に良い商品」ではなく、「顧客が欲しい良い商品」でないと、死の谷に陥ってしまいます。

死の谷を乗り越えるには

死の谷は、どんどん運営資金がショートしてしまう段階です。もっとも厳しい環境です。戦うための3つの方法論を紹介します。

1つ目は「マーケティング戦略を変更する」です。元々狙おうとしていたターゲットではなく、ガラッと売り先を変更することで、ニーズにフィットする可能性があります。マーケティングメッセージや広告の出し先を変更することが業務範囲となりますので、コストはかさみません。

2つ目は「早急にニーズにフィットした製品に改良する」です。事業は「勝てば官軍」の世界です。失敗した製品は一度撤退してしまい、ニーズにフィットした製品に改良してから発売し直すのです。開発コストに加えてマーケティングコストも発生するため、コストはかさみます。

3つ目は「追加の資金調達」です。資金がなくなれば事業は終了となります。様々な方法を試すこともできないまま、お金がないため事業クローズということはよくあります。1つ目、2つ目の方法論を試すにしても、資金の必要性は発生する可能性が高いです。どのようにすれば売れるのか、市場状況を把握した上で商売ができるように、お金を追加投資しましょう。

ダーウィンの海とは

ダーウィンの海について
ダーウィンの海について

ダーウィンの海は、事業化から事業成功までの障壁を指します。

ダーウィンの進化論は、生物の生存には「淘汰」(生存競争によって環境に適応しない個体が死滅し適応するものだけが残るということ)があると述べています。事業においても同様で、たとえ世の中に放たれたとしても、競合との競争に勝利し顧客定着されなければ、市場で生き残ることができないのです。

特に競争が激しく進化が速い市場環境では、淘汰が激しいため、技術力の向上とニーズへの対応を継続的に実施しなければダーウィンの海に飲み込まれてしまうのです。

ダーウィンの海の例:電子商取引(E-commerce)

・ケース:巨大プラットフォーマー/特化型ECサイトの乱立

・ダーウィンの海:Amazonを含めた巨大プラットフォーマーがE-commerce市場での地位を確立して以来、新興のE-commerceプラットフォームが競争に参加しています。非常に速いペースで市場が進化し、企業は技術革新とサービスの改善を継続的に行う必要がある厳しい環境です。

・解決策:ロジスティクスの最適化、カスタマー体験の向上、価格競争を通じて競争しています。また、AIを用いたパーソナライズドマーケティングやARを用いた商品試着機能など、新技術を積極的に導入しています。

ダーウィンの海はなぜ発生するか

外的な要因の影響が特に大きいです。市場へ参入したとしても、予測困難な競合の状況に非常に大きく左右されます。また、お客様のトレンドも日々変化します。

競合とお客様の動きを総合的に捉える必要があるため、四方八方をウォッチし続けて、市場ニーズにあった施策を打ち続けなければいけないのです。

顧客ニーズを読み違えてしまうと一挙に競合に市場獲得されてしまう可能性があり、またタイミングを見誤っても同様にダーウィンの海が大きく立ちはだかります。

ダーウィンの海を乗り越えるには

ダーウィンの海を乗り越えるには、市場競争に勝つしか道はありません。具体的な方法を紹介します。

1つ目の方法は「製品の競争力強化」です。最も正統的な戦略です。「良い商品」を作るために、顧客課題をどんどん改善し、市場が本当に必要とする製品へとバージョンアップします。ユーザーからの声をあつめ、課題を見える化し、優先度をつけて、解決していきます。地道な技術的努力こそが、顧客のLTV(Life Time Value=「顧客生涯価値」)を向上させる近道です。

2つ目の方法は「マーケティング戦略の強化」です。マーケティングとは「お客様が何を求めているかを考えて、その解決策を実行すること」です。お客様の解像度をあげて、お客様が欲している情報や機能を、適切にお届けしていきます。情報の溢れかえった世の中ですので、情報に埋もれないような訴求を行い、お客様に覚えていただける製品を目指しましょう。

3つ目の方法は「付加価値の創出」です。性能を付加する「機能的価値」、顧客満足度をあげる「感情的価値」、理想の自分に近づける「自己表現的価値」があります。付加価値の付け方は、製品自体、売り方、販促方法など、あらゆる顧客接点で可能です。

ガラケーという言葉がありますが、「ガラパゴスケータイ」の略称です。ガラパゴス諸島の生物のように独特の生態系を築いたことから、ガラケーと称されるようになりました。これは市場ニーズに対して行き過ぎた例であり、結果としてスマホに惨敗しています。

まとめ

新規事業開発における魔の川、死の谷、ダーウィンの海については理解できたでしょうか。どれだけ良い技術を有していても、きちんとお客様のニーズを捉えて、顧客本位の事業開発を行えるかが重要なのです。

そのためには、技術とマーケティングの2軸を忘れずチームを組成することを強くお勧めします。新しい事業を作る時には事業開発的観点が必要になりますので、事業開発を担う事業家をリーダーに据えて、ぜひ認識合わせをしながら事業を作ってください。

事業開発.comは、新規事業を担う事業家の輝く未来を応援するためのメディアですので、よろしければ他の記事もご覧ください。技術経営で陥りがちな魔の川、死の谷、ダーウィンの海以外にも事業開発をするためのナレッジが蓄積されています。

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この記事を書いた人

古川 賢人のアバター 古川 賢人 事業開発.com編集長/株式会社イフビズ代表

事業家、起業家。ベンチャー企業創業および新規事業開発〜運用、大企業での新規事業開発〜運用まで経験。世界的経済誌Forbesにてアジアで活躍する30歳未満のリーダー人材(Forbes 30 Under 30 Asia 2021)として選出された他、グッドデザイン賞、日本ギフト大賞、ACC等受賞経験あり。事業開発人材=事業家の働きやすい環境作りや事業家育成が企業成長及び経済成長の鍵と考えている。

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